筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
狡くて残酷
筒井くんはだいたい週に2、3回うちに来る。
何気に料理が得意で、私が仕事から帰る時間に合わせて夕飯の準備をしておいてくれることもある。ビーフシチューもパスタも和食もなんでも美味しかった。
……まあ半分は材料のおかげって気もするけど。
私が渡しているお小遣いで買っているであろう豪華な和牛にトリュフに新鮮な魚……なんて美味しくないわけがない。ヴィンテージものの良いワインなんかも添えられていて、一人の時には味わえないお嬢様気分で満たされる。
お小遣いを私に還元してくれるんだから、悪い子ではないんだろうとは思う。

そういうところも好きだけど、筒井くんとは付き合えない。
だって私のお小遣いで生活してる子と、なんて絶対に結婚できないから。

***

「おはよう東条さん」
「おはようございます。音石常務」
会社員バージョンの私は父が認めた大手化粧品メーカー、音石化粧品の秘書課に勤務している。
私は常務の音石理一郎(おといしりいちろう)さん付き。名前からわかる通り、音石化粧品の御曹司で30歳。スラッと高い身長に、鼻筋の通った凛々しい顔立ち、そこから繰り出される爽やかな笑顔。
私が恋愛する意味があるとしたら、きっとこういう人。
「何? 顔に何か付いてる?」
「え? あ、すみません。なんでもないです」
つい顔をまじまじと見てしまった。
「東条さんにみつめられて悪い気はしないけどね。今日のリップ、良い色だね」
こういう思わせぶりな冗談も言い慣れてて気さくなタイプ。モテるんだろうな。
「音石常務、本日はオレイエ様への訪問がありますので商品資料は念のため昨シーズンのものもメールでお送りしました。それから手土産のお菓子もご用意しておきました」
「お、木菟(みみずく)屋。さすが東条さん、気がきくね」

この日は取引先への訪問の車の中でも、ずっと恋愛とか結婚とか人生とか、そんなことが頭から離れなかった。
音石常務は筒井くんとは対極にいるタイプって感じ。
きっちり社会人してて、仕事もしっかりこなして、きっと家のこともちゃんとやってるんだろうな。
斑目グループほどではないけど音石ホールディングスだって手広く事業展開しているし、音石常務にだって縁談の話とか婚約の話なんかが山のように来ているはずだ。そう考えると同志のようにも思えてくる。
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