筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
「お待たせ」
それからさらに五日が過ぎたデートの日、昼前に理一郎さんが私の家まで迎えに来てくれた。車には詳しくないけど、高級メーカーのスポーツカーで「さすが」とか「らしい」なんて感想が浮かんできた。
車のドアもナチュラルに開けてくれて、車内の音楽は流行りのものだけど大人っぽいものばかりだし、私が返しやすい話題を振ってくれる。なんていうか本当に完璧。
事前に行きたいところを聞かれて、とくに思いつかなかったから無難な気がした水族館を提案しておいた。

水族館の暗がりではぐれないように手をつなぐ。
水槽だけが光を放つ空間は幻想的だけど少し息苦しくもある。
「水族館てさ、きれいとかかわいいって思う派とおいしそう派に分かれるんだよね」
「そうなんですか?」
「小夜子はどっち?」
彼に質問されて水槽を覗き込んだ。
「かわいい……派、かな」
本当は少し怖いと思った。
その中だけが煌びやかで、何不自由ない……だけど決してそこから出られない水槽が、自分の生きている世界に重なったから。
少しユウウツな気持ちになりながら水槽を見ていたら、何かが目の前をチラついた。
魚が一匹、私の前をふわふわ行ったり来たり。人懐っこいみたい。
「ハリセンボンだって」
理一郎さんが解説プレートを見て教えてくれた。針の出ていないハリセンボン。
「ふふ、かわいい」
思わずつぶやいてしまったのは、そのコが筒井くんに重なって見えたから。一見人懐っこくてかわいいけど、針を隠してる。今度会ったら教えてあげようかな、なんて考えた瞬間、もう会わないんだって思い出す。
いつの間にか、ハリセンボンもどこかに行ってしまった。
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