筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
母の根回しは驚くほど早くて、その週末には両家の顔合わせの席が設けられていた。
お見合いではないから、まずはホテルのラウンジで堅苦しくない程度にご挨拶をすませましょう、ということになったそうだ。
お正月以外ではあまり着なくなった着物に身を包むと、自分がお嬢様で、今日が特別な日なんだという実感が湧く。

約二十七年間避け続けた斑目民人さんに、今日初めて会うんだ。

メールでは何年もやり取りしてるから、落ち着いた大人な方だっていうのはなんとなくわかっている。
斑目家の跡取りで、私に眠れるような曲を贈ってくれるような優しい人。結婚相手として、非の打ち所がない方。きっと私を幸せにしてくれる。
「すごいわよね〜小夜子よりも若いのに、もう輸入食品の会社とホテルの経営を任されてるんですって」
ラウンジで先方を待つ間、隣に座った母が私に話しかける。
「え? 年下なの!?」
「なによ、あなた。そんなことも知らなかったの?」
だって本当に興味がなかったから。写真もプロフィールも、今まで一度も見なかった。
〝年下〟と聞いて胸が騒つく。年上の大人な男性と結婚すれば筒井くんのことを思い出すこともないだろうと思っていた。年下となると、事あるごとに筒井くんを思い出してしまいそうだ。

『好きだよ、小夜ちゃん』

だってもう、今この瞬間にあの夜のことを思い出して全身が切なくなってしまう。
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