筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
「どうしたの? 小夜子」
「私……」
ゴクッとツバを飲む。
「私は……結婚できません」
両家の親が騒めく。
「小夜子、何を言ってるんだ」
父が珍しく慌てている。当たり前だ、娘が斑目グループにあり得ないくらい失礼なことを口走ったのだから。
「小夜子さん、結婚できないとはどういう……もう少し先延ばしにするという意味ですか?」
先方のお父様の言葉に首を横に振る。
「私には、好きな人がいるんです」
「その方と結婚するということですか?」
「いえ、私はしたいと思っていますけど、わからないです」
筒井くんと結婚できるかどうかはわからない。
「それなら」
「その人を好きな気持ちを抱えて、斑目家に入るというのは私には耐えられないです」
「小夜子! 冷静になりなさい!」
「そうよ、散々お待たせしたのに失礼よ!」
父も母も、蒼白しているのか怒って赤くなっているのかよくわからない顔。
「許されないことだってわかっています。絶縁していただいて構いません。きっと一生かかっても返せないくらいの金銭的な迷惑をかけてしまうけど、働いて返せる分だけは必ず返します」
言いたいことだけ言って、立ち上がって頭を下げる。

「お待たせ」

聞き覚えのある声に顔を向けると、そこにあるはずのない顔があった。

「筒井くん?」

どうしてここに?
また私を心配して来てしまったの?

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