筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
「俺はずっと自分の婚約者に興味があったけど、小夜ちゃんは頑なに会ってくれなくて。それでますます興味が湧いたんだ、塾でバイトしてるお嬢様に。」
それで、母方の姓を使って偽名で生徒になったらしい。

「お金に困ってないのにバイトするなんて変わってるな、くらいにしか思ってなかったけど、実際に会った小夜ちゃんは授業も生徒とのやり取りも、他のバイトより全部一生懸命で〝ああ、この人はちゃんと自分の足で立ちたいんだな〟って伝わってきた」
ただの生徒だと思っていた筒井くんがそんなことを思っていたなんて。

「はっきり言って一目惚れ」
「え」

「それから人懐っこい振りして小夜ちゃんに話しかけていろいろ聞き出したら『筒井くんには選べる未来があって羨ましい』なんて言うから、小夜ちゃんは本当に婚約が嫌なんだってわかっちゃって」
彼は少し悲しそうな顔をする。
「ミヒトって名前でバレるかと思ってたけどそんな感じでもないから、俺の名前も知らないくらい嫌われてるのかな、とも思った」
興味が無さすぎて、今日の今日まで「タミト」さんだと思ってた。
「本当はそのまま小夜ちゃんの近くで口説きたかったけど、アメリカに行かなきゃいけなかったから、メールしてみることにしたんだ」
あのメール、そういえば筒井くんと入れ違いのタイミング。でもまさか10代の書いた文面だなんて思わなかった。
「そしたら『眠れない』なんて言われて、本当に嫌われてるんだなって悲しくなったし、そんな風に小夜ちゃんを追いつめてる自分のことも嫌いになりそうだった」
また悲しそうな顔。
「だから、小夜ちゃんのためにできることを必死で考えた」
「それで……音楽」
民人さんは頷いた。
「聴いてくれてるって言ってくれて、少しは心を開いてくれたかと思ってた」
たしかにメールのやり取りは、私たちの距離を少し縮めた。

「だからあの一年前の夜、アメリカから帰国して、その足で小夜ちゃんの家に向かった。本名を明かして、プロポーズしようって思って」

知らなかった一年前の夜のことを民人さんが話し始めた。
< 47 / 50 >

この作品をシェア

pagetop