この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編
蓮は店を出て、当たり前だと言うように心菜の手を取り歩き出す。

この先どんな困難に遭おうとも、この手は二度と離さないと誓う。

「住んでる所はどこだ?送って行く。」

本音を言えばずっと一緒に居たいが…疲れているだろうし、無理強いは出来ない。

「実はこのカフェの上なんです。裏を回ると入口があるので、良かったらもらったパンとか一緒に食べませんか?」

再会してから、ずっと敬語で話してくる心菜を蓮は寂しく感じている。

それだけ心が離れてしまったのだろうか…。
それでもその事には触れず、

「ありがとう、嬉しいよ。」
と二つ返事で答え、心菜が導くままついて行く。

アパートメントの入口はオートロックで防犯面はしっかりしていた。

その事については安心したが、借りている部屋はカフェの事務所兼物置だった場所だと聞いて、不安を拭い切れないでいる。

「ちょっと狭いですけど…。そのままどうぞ。」
と、靴を脱がずに心菜が蓮を部屋に通す。

床は板張りで壁は濃いブルーに塗られている。カフェと同じような配色が、まるでまだカフェの中にいるような錯覚を覚える。
部屋の中央には、布製の大きなソファと木製テーブルが置かれていて、こざっぱりとした1DKだ。

所々にお店の立て看板だったり、装飾品だったりがあり事務所なんだと思う程度。

部屋に到着しても手を離してくれない蓮を、心菜は不思議に思いながら、ソファの方へと連れて行く。

「コーヒーでも淹れますね。寛いでてください。」
と、微笑みと共に伝える。

蓮は言われた通りソファに座り、繋いている手を軽く引っ張り、半ば強引に心菜を隣りに座らせる。

「きゃっ⁉︎」

びっくり顔の心菜を横目に見て楽しそうに、
「俺がやるから、心菜の方がのんびりするべきだ。」
と言って立ち上がり、当たり前のようにコンロの上に置かれたやかんに、ペットボトルに入ったミネラルウォーターを濯ぐ。

心菜も慌てて立ち上がり、蓮の為にコーヒー豆やカップを用意する。

「座ってろって。」

蓮は渋い顔をして心菜を見る。

立ちっぱなしの仕事は妊婦に良く無いと聞く。
心菜に妊婦の自覚が少ないのか、働かなければいけないと思う気持ちが強いのか…蓮の心配は増していく。

「心菜、君は1人の身体じゃないんだ。もっと自分を労らないといけない。」
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