真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
白い扉が二人の使用人によって内向きに押されていき、左右に大きく開かれる。


目線を落としたままの部屋の中、足元に広がる大きな赤い絨毯が目についた。


「母上、ただいま戻りました。お客さまをお連れしました」


手慣れた様子でメルバーン卿が軽く声をかけている。建前上わたしはついででなければいけないので、客人よりも先に息子であるメルバーン卿が挨拶することになる。


隣から聞こえる声は家族に向けるものにふさわしく、穏やかで優しい。ううん、聞き慣れない。


「おかえりなさい、ウィリアム。……その方をこちらにご案内してちょうだい」


うつくしい女性の声がやはり優しく答え、ひと呼吸置いて凛と声色が変わった。


ここからは公爵夫人として対応するので、わたしの名前を名乗ってよいということだ。


陛下の薔薇たるわたしの名を、公爵夫人としての責任において、無闇に広めないと約束するということ。

今この場にいる者たちは、夫人が信用している者たちであるので、信用してもよい、信用して話をしてほしいということ。


扉が背後で閉まってから、そっと背中に触れたメルバーン卿に促され、失礼いたします、と腰を折った。
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