真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
いくら心を尽くしてくれても、いくら言葉を選んでくれても、相手にその努力が伝わらなければ、信じてもらえないのよ。


「書簡は、できるだけ陛下がお書きください」


下書きはわたしがいたしますから、どうか。


「恐れながら申し上げます」

「……許しましょう」

「愛するひとの言葉は、愛するひとから直接聞きたいもの。多忙によりそれが叶わないのであれば、愛するひとの筆跡で書いてほしい、という思いは、ごく自然なことと存じます」


わたしでしたら、とは言わなかった。


貴人を自分と同じものとして扱うのは恐れ多い。そんな丁寧さが必要なほど、女王は察しが悪くない。


「陛下。どうか」


すとりと表情を落とした女王は、しばらく答えなかった。


「……ジュディス」

「はい」

「努力するわ。わたくし、今晩の書簡ではまず、忙しさにかまけたことを、謝りたいと思うの」


ほうと息をつく。


「差し出がましい真似をお許しください」

「仕事をしてくれてありがとう。書簡など私的なものなのだから、一般的に言えば差し出口、わたくしからすれば嬉しい助言を挟むのがあなたの仕事だわ。これからもたくさん口を挟んでね」


はい、と笑い合う。


一緒に内容を考え、わたしが書き、女王が書き直した書簡は、王配の心を動かしたと、後日伝えられた。
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