真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
文化的な環境のなかで高い教育を受け、四か国語に通じ、音楽に秀で、眉目秀麗と、これ以上望むべくもない男。


これだから、わたしはこのひとが好きになれないのよ。


同じ職場だから仕方がないのだけれど、出会うといちいち「薔薇のきみ」と呼びかけてくる。


身分が高いのとうつくしいのはメルバーン卿のせいではないけれど、常に衆目を集めるひとと話せば、当然こちらも注目されてしまう。


わたしは何もしていないのに、このひとのせいでありもしない噂話に入れられるなんて、まっぴらごめんだわ。


こちらから話しかけるなどあり得ないのだから、メルバーン卿が呼びとめなければ何も起こらないのである。


話しかけないでほしいし、近づかないでほしい人物筆頭。

礼儀正しいつもりか、呼びかけついでに笑いかけてくるのもやめてほしい。


だというのに今日はなぜかしつこい。


ぷりぷりしながら私室に辞そうとするのを、薔薇のきみ、とまだ引き留める。
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