真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「ジュディス・プリムローズ」

「は、はい」


普段はわたくしの薔薇としか呼ばない陛下のフルネーム呼び。まずい。ほんとうにお怒りだわ。


「わたくしの薔薇、わたくしの真珠。そのように火急の用件は、遠慮をせずに、入室後すぐに述べてもらいたかったわ」

「申し訳ありません。恐れながら火急ではないと判断いたしまして……」

「どうやら残念なことに、認識に齟齬があるようね。火急も火急だわ。ご夫君に署名をもらうなど難しいでしょう、すぐに相談してほしかったわ」


申し訳ありません、と答えたものの、いえだってわたしは仕事をしているのだし、私事より仕事を優先するのはおかしくないはずだわ……とこっそり思うくらいは仕方ないと思うの。


「ジュディス、あなたの気が変わらないうちに書類を取り寄せていらっしゃい」


き、気が変わらないうちに? 言葉が強い。


「書類はすでに、こちらで書ける部分は記入し終えまして、夫の署名欄をどのようにしようかと頭を悩ませているところでした」

「あら、さすがわたくしの薔薇、用意がいいわね。すぐにそれをお持ちなさい」


にっこり微笑まれて固まった。


へ、陛下……!? さすがに何をしようとしているかわたしにも分かります! 職権濫用です!
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