真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
わたくしの薔薇、と国花と家名になぞらえて呼びかけられて否やを唱えるなど、考えられなかった。


わたしが貴族の使用人の仕事を好み、かの夫人の恋文の助けになれたのは、中流階級にあっても勉学のおこぼれに預かれたからである。


お嬢さまの付き添いとして、お屋敷でのマナーや礼儀、ある程度の言葉遣いを学ぶことができた。

文字の読み書きも、家庭教師がお嬢さまに教えるところを見たり、勉強熱心なお嬢さまの復習に付き合ったりして身につけられた。


生計を立てるために貴人に仕えたことが、このように繋がるだなんて。


金の髪に産んでくれたことを、母に感謝しなくてはいけないわ。

お母さんありがとう、おかげで娘は元気に暮らしています。


4、5枚の重ねた紙とペンを置けば埋まってしまうような、小さな正十角形の机を思い返す。


……わたしひとりの部屋を持つことすらあたわず、居間の小さな机で頭をひねって書いた文が、このように評価されるなんて。


女性が女性パトロンに庇護を求める先例は、いまだなかった。


ゆえに、女性の文筆家はいても、男性の同情を買うと同時に作品がほとんど途絶える。

甘やかに囲われるか、わたしのように結婚をして家のことに追われるかしてしまい、文筆に費やす時間がなくなるからである。


ただ才能を見込んで支援をしてくれる異性のパトロンは少ない。


それが、この幸運。


わたしは同性の女王に見出され、今や、女王の文官という社会的地位と、抑圧されない文運を享受しようとしている。
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