帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません

別れのキス~大我side~

なんて愛おしいんだ。商店街のみんなの期待を一身に背負って、芙優は小さな体で一人頑張ってきたんだ。本当ならおばあちゃんを失った寂しさを抱えるだけで精いっぱいのはずなのに。

俺は美丘駅前商店街をつぶす側の人間だと言うのに、芙優に深く肩入れしてしまっている。

これじゃあ鳳条財閥御曹司失格だ。けれども俺は芙優を好きでたまらない。建設会社の全社員、はたまた関係企業の社員たちの生活を支えている立場にありながら、会社の事業を阻む彼女を、幸せにしたいという思いにも抗えない。


腕の中に包み込んでいた芙優が、萎れた花が水を吸い上げて茎をのばすように、華奢な背を凛と伸ばした。

「大我さん、ありがとう。これでやっとあきらめがつく。商店街の狭い道はこれ以上放置できないって、みんなも分かったと思う。私とあなたは立場上、敵同士。もう、会わないほうがいい」

芙優の固い表情を見て、俺ははっとした。

彼女の最高の笑顔が、その顔から消え去り、泣きはらした目をしている。
俺が芙優といることで、返って彼女につらい思いをさせてしまっているのだ。
こんなことならもう、俺は彼女と会わない方がいいのかもしれない。


「芙優、最後に一度だけ、キスしたい」

俺は声を絞り出した。目を閉じた芙優の、涙にぬれた唇に触れた。
かすかに塩辛い味がするこのキスを、俺は一生忘れないだろう。

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