帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません

私がすべきことは~芙優side~

翌日私は退院手続きを終え病院をあとにした。

これから私は商店街に戻り、先輩たちに苦渋の決断を迫ることになる。だけど相手は財力のある鳳条財閥。ここはひとつ、これからの未来を築けるだけの十分な資金を得て、新しい一歩を踏み出そう。そうやってみんなを説得しよう。
そして私も、おばあちゃんの思い出にすがってばかりいないで、前を見なくちゃいけない。

歩いていると、黒い大きな車が目の前に止まった。ドアが開いて大我が駆け寄ってくる。

「もう大丈夫?一人で歩ける?」

「大丈夫。それに、もう会わないって約束したのに」

「やっぱそんなの、無理」

大我は言って私を抱きしめた。

抵抗しなくちゃと思うのに、体が動いてくれない。彼のぬくもりがだんだん、居心地の良い場所になってしまっているのを感じた。

だめだ、私、このぬくもりに、どうしても抗えない。

やめて、路上でキスとか、恥ずかしすぎる。

「あれから考えたけど、やっぱり芙優と一緒にいたい。しばらくは俺の部屋においで。商店街のことは、俺に任せて。みんなが辛い思いをしないように、できる限りのことをするから」

私は戸惑いながらも、その大我の言葉にうなずいてしまった。

病院での私の様子を見に来た亮真が、私たちを見ていることも知らずに。

*

大我の家に間借りして三日後の夜、空き店舗で開かれる商店街の定例会に出席するため、私は大我のマンションから美丘商店街に出向いた。

商店街では敵方と目される鳳条のおひざ元から商店街に出向く後ろめたさで、何度も引き返そうかとも思ったけど、火事のことで、謝罪もお礼もしなければならない。

会場では会長をはじめ、先輩たちが笑顔で出迎えてくれた。

「大変だった。よく来てくれたね。退院して今はどこにいるの?」

レイナさんは私をいたわって優しく声をかけてくれたけど、ごまかすように微笑んで打ち合わせの席に座った。

皆にお礼と謝罪、体調が無事であることを報告した後、再開発計画について話した。

「今回の火事で、この狭い道路の商店街は危険だってことがわかった。いずれは道を広くしなくちゃいけない。ならば、立ち退き料をたくさん請求できる今動くのが、将来のためだと思う」

先輩たちは私の話を、じっと黙って聞いていた。私の話を受け入れたくないとでも言うように、そば屋「中原」の店主・中原さんは硬く腕組みして横を向いてしまった。

「芙優ちゃんと違ってさ、将来って言われても、何年もない。残された少ない余生を穏やかに今まで通りに過ごしていきたい、それだけなんだよ俺たちは…」

中原さんの言うとおり。この年齢でまた新しい道を探せと言うのは酷な話だ。それも分かっているのだけれど…

そこに、ガラリと店の扉が開き、亮真が飛び込んできた。

「おじさんたち、芙優の言う事なんか聞くな。芙優は建設会社と組んでおじさんたちを手玉に取ろうとしてるんだ。芙優は再開発側の人間だ」

亮真は言うと、私をじっと見つめた。その目には敵意よりも、悲しみが影を落としているように見えた。

「亮真‥‥何言ってるの」

「だってそうじゃないか。芙優は今建設会社の次期社長の部屋に寝泊まりしてる。金に目が眩んだか?それともあのイケメンに騙されたか?火事だってそうだ。本当に会長のおじさんの失火だったのか?」

「なんてこと言うの亮真。大我さんはそんな人じゃないよ」

「ほら、そうやって肩を持つことが何よりの証拠だ」


「芙優ちゃん本当か?どうりで意見を急にひっくりかえしたわけか」

腕組みをして横を向いていた中原さんが立ち上がる。
ほぼ同時に鳥壱店主の会長もゆるりと立ち上がった。

「亮真、ここは中学生が来るところじゃない。おまえさんの言い分は分かったが、ここはひとつ、わたしらだけで話をしたい。今日のところは、亮真も、芙優ちゃんも、帰ってくれ」

「会長…」

会長はじっと私を見つめている。いつになく力強いその視線に押し出されるように、私はその場を出た。


悔しさとやるせなさを地面に打ち付けるように、足早に歩いて駅に向かった。

先輩たちの気持ちも分かる。亮真が寝返ったと責めるのも分かる。かといって、大我を完全な敵だとも思えない。

「みんなが辛い思いをしないようにできる限りのことをする」そう言った時の真剣なまなざしは、私を圧倒するくらいに強い意志を燃やしていた。私はあの大我の思いを信じてみたいと思ってしまったのだ。


───私どうしたらいい?おばあちゃん。
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