落ちこぼれ魔女・火花の魔法改革!〜孤独なマーメイドと海の秘宝〜

第40話

「うん? さっきの話?」
 火花はなんのことか分からないのか、首を傾げた。
「さっき、みんなの前で俺に、ずっと一緒にいるって言っただろ?」
「あぁ……古代魔法語学の話? うん、言ったけど」
「……俺が言ったのは、ただ一緒にいるってことじゃないからな」
「え?」
 火花の手を取って、泳ぐのをやめさせる。火花のくりくりとした瞳が、パッと俺を映した。
「ノアくん、どうし――」
「俺は、火花をずっと守っていきたいと思ってるよ。……その……す、好きだから」 
 あぁ、と息を吐く。
 ようやく、言えた……。
 心臓が破裂しそうなくらいにバクバクしてる。
 どうしよう……火花の顔が見れない。
 どう思われただろう。火花は今、どんな顔をしてるんだろう。
 めちゃくちゃ見たいのに、見たくない……。
 ドキドキしていると、火花が繋いでいた手をきゅっと握り返してきた。
「ひば――」
 思わず顔を上げる、と――。
「うんっ! ありがとう!」
 恐ろしいくらい軽い返事が返ってきた。
「…………」
 唖然となる。
「あ、ありがとうって……え?」
「ん?」
「いや、なんか、軽くない?」
 俺、渾身の告白をしたはずなんだけど。
「いや……火花、今の言葉の意味、分かってる?」
 まさか、気付いてない?
「うん? もちろん。……あ、もしかして告白だと勘違いすると思った? ハハ、大丈夫だよ! ノアくんには七年も前にフラれてるからね! ちゃんとわきまえてるって」
「…………」
 思考が停止する。
 …………は?
 フッた? 俺が火花を? いつ?
「ちょ、ちょっと待って! 七年前って……俺がいつお前を……」
 ハッとする。
 思い出すのは、火花と仲良くなったときのこと。
 火花が孤児だってことをからかわれて、幼稚園から逃げ出したとき、連れ戻しに行ったその帰り――。
『――私のこと、好きなの?』
『はっ!? そんなわけないだろ! バカッ!』
 まさか、あれ!?
 思わず額を押さえ、これ以上ないくらい深いため息を漏らした。
「いや、たしかに否定したけど……」
 あれは完全に照れ隠しだろ。
 それくらい分かれよ、このバカ火花。
 というか、七年前の自分が恨めし過ぎる……。
 ついムスッとなっていると。
「あのね、ノアくん」
「……ん?」
 最早放心状態で顔を上げると、火花は少しだけ寂しそうな顔をして、俺を見ていた。
「火花?」
「ノアくんは女の子みんなの憧れで、すっごくモテるでしょ?」
「?」
 いきなりなんだ?
「だから……いつか本当に好きな子ができて、私のそばからいなくなっちゃうってことは、私、ちゃんと分かってるから、大丈夫だからね」
「は――?」
 突然、心臓がひやっと冷たくなった気がした。
「だからその……私はこれからも一緒にいたいとは思ってるけど、もしノアくんが離れていくときが来たとしても、私はちゃんと受け入れるよってこと」
 寂しそうな、なにかを堪えるような横顔。
 ……まただ。
 火花はいつも、一定の距離を詰めようとすると線を引く。
「……なんでだよ」
 悔しくなる。
「俺は、離れる気なんて一生ないんだけど?」
「え?」
 今、そう真正面から伝えたはずなんだけど。
「逆に聞くけどさ。火花は、どうしたら俺のそばにいてくれるんだ? どうしたら、そういう不安そうな顔をしなくなる?」
 火花が無邪気に笑えるなら、俺はなんだってするのに。
「えっ……ノ、ノアくん?」
 俺はこんなに、そばにいたいって思ってるのに……。
「火花」
 名前を呼んで、腕を引く。
「えっ……」
 火花の細っこい身体を、ぎゅっと抱き締める。
「ノッ……ノアくん!? あああ、あの……!?」
 腕の中の火花ばじたばたもがく。
「火花、よく聞いて」
 俺は火花を抱き締めたまま、想いを伝えた。
「好きだよ、火花。俺は、ずっと火花のことを女の子として見てきたんだよ」
「え……え……?」
 火花がぴたりともがくのをやめた。
 少しだけ腕の力をゆるめて見れば、火花は頬を真っ赤にして瞬きを繰り返してる。
 ……可愛い。
 そうだよ。俺はずっと、お前にこんな顔させられてきたんだよ。だから、お前ももっと俺のことを意識すればいいんだ。
「えぇっ……」
 まだ足りない。
 もっと、もっと俺だけを見て。意識して。
 絶対、ほかの男になんて渡さないからな。
 俺は、火花がいい。
 バカで無鉄砲で、無自覚無防備だって、俺は火花がいい。
 いつも笑ってるけど、本当は誰より寂しがり屋で、怖がりで、泣き虫な火花がいいんだ。
「ほかの女の子なんてどうだっていい。俺は、火花がいればなにもいらないんだから」
 恥ずかしさを必死に堪えて、畳み掛けるように言う。
「えっ……えっ!? あ、あの、ノアくん……なんかそれ、告白みたいなんですけど……」
 今さらかよ。さっきから伝えてるのに。
 わたわたして動揺する火花さえ、可愛くて仕方ない。
「いや、告白なんだけど」
「え……」
「言っておくけど、この七年間ずっと片思いしてたんだけど」
「ええぇぇえっ!?」
 平然としたフリをして言うと、火花はさらに顔を真っ赤にした。
 ……あぁ、可愛い。
 思わず頬をつんと指でしてみると、火花がびーんと固まった。
「…………?」
 ……あ、あれ?
「お、おーい、火花?」
 ……動かない。
「おい! 火花っ!?」
 嘘だろ!? ここで固まる!?
 火花はぽけっと口を開けて放心状態。というかたぶん、意識ない。
 目を覚ましたら記憶飛んでるとかそういうオチやめてよ!?
 半泣き状態で火花を揺する。
「おっ、起きろ火花!! なんでここで寝るんだよ~!! 起きろっ! おーい、火花っ!!」
 しーん……。
 起きる気配はまったくなし。
 嘘だろ……。
「火花ぁ~……」
 あぁ、もう泣きたい……。
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