悲劇のフランス人形は屈しない
「へー結構大きい公園だったんだ」
家で勉強をしていたものの途中で行き詰まり、一旦息抜きをしようと、私は町内を散歩することにした。
家から15分ほど歩いたところに、大きな公園があった。漫画でも公園のシーンが何回か出てきた気もするが、記憶に薄い。緩やかなカーブを描くジョギングコースでは、腕にスマホを付けたジョガーやサイクリストたちが道を譲り合いながら走っている。ベンチで楽しそうに談笑している老人や、芝生の上でピクニックをしている親子、ペットを連れた人たちが目に入る。金持ちが住む界隈のためか、公園は綺麗に整備され、ゴミ一つ落ちていない。
「ここで走ったら気持ちよさそう」
雲一つ無い晴天を仰ぐ。
(そういえば前は、ストレス感じる度にランニングしたっけな~)
毎日の倉庫作業もキツイ肉体労働だったが、走ると頭の中が空っぽになるあの感覚が忘れられなくて、どんなに疲れていても走っていた。
(しかし、クローゼットにはスポーツウェアが一つもなかったな)
人が数人入れるだろう大きなクローゼットには、白いレースの付いたワンピースや花柄のミニスカートで埋め尽くされていた。ピンクや水色、黄色などパステルカラーの可愛らしい服のみで、スポーツウェアや色の暗い服は一切なかった。今日はその中から、比較的落ち着いた長めのスカートを発掘し、引っ張り出してきた。
(るーちゃんらしいと言えば、るーちゃんらしいが・・・)
しかし、やはりスカートを履くのはどこか緊張する。
(ズボンが恋しいなあ)
残念なことにズボンさえも一枚も持っていなかった。
(ってかるーちゃんとズボンって想像がつかない。…いや、天下のるーちゃんなら何を着ても似合うか)
ぼんやりとそんなことを考えていたので「危ない」と言う声が聞こえた時には、遅かった。
頭に思い切り固いものが当たり、一瞬目の前で光が飛んだ。
「す、すみません!大丈夫ですか!」
小学生くらいの男の子が慌てて駆けつけた。くらくらする頭を押さえ、私は言った。
「大丈夫…」
「ボールが飛んでいってしまって」
頭に直撃したのは、なんとバスケットボールだった。
「バスケ、してるの?」
痛む頭をさすり、近くに転がっていたボールを手渡す。
「はい・・・。頭、大丈夫ですか?」
男の子の後ろに視線を向けると、コートらしきものが見える。バスケットゴールが一つある簡易的なコートだが、小学生が遊ぶには十分な広さだった。
「うん。ね、お姉さんも入れてくれる?」
「・・・え?」
男の子の顔が見るからに陰った。
ボールをぶつけた手前、断れないと思ったのだろう。男の子はしぶしぶ頷いた。
(見てなさい、元バスケ部の実力!)
スリーポイントシュートを何本か打つと、私はあっという間に小学生たちのヒーローとなった。

・・・はずだった。
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