初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
 離縁の原因は、屋敷に戻ってこないイアンのせいにできる。そうなれば、慰謝料、もしくは財産分与分くらいは請求できるだろうか。今後のために、資産はないよりもあったほうがいい。

「奥様。やはり、気分がすぐれませんか?

 後ろの鈎をはずし、コルセットをゆるめながらナナが問うた。

「いえ、大丈夫よ。少し考え事をしていただけ。心配をかけて、ごめんなさいね」

 ナナは首を横に振る。

 しゅるりと音を立てながら、灰鼠のドレスが身体を流れ、足下に落ちた。

 イアンがマレリと合っているならば、こちらも考えなければならない。
 頼れる相手といえば、やはりラッシュだろう。
 できることならば、イアンと婚姻関係のあるうちに、彼がマレリと関係をもってくれないだろうか。そうすれば姦通罪でイアンとマレリは処罰され、イアンの財産がケイトのものとなる。

「奥様。気持ちが落ち着くように、ハーブティーなどはいかがですか?」

 ケイトの考えを吹き飛ばすようなナナのやわらかな声で我に返った。
 すでに肌触りのよい、絹のナイトドレスに着替えさせられている。

「えぇ、お願いしてもよいかしら?」
「もちろんです」

 これからのことを考えると、ケイト一人では背負いきれない。誰かに助けを求めなければ――。

 ハーブティーのさわやかな香りが、部屋を満たしつつあった。


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