涙は甘いケーキに溶けて
 帰宅して玄関のドアを閉めると同時に、ずっと我慢していたため息がこぼれた。

 仕事用の黒のパンプスを三和土に投げ捨てるように脱いで部屋に上がると、バッグを放り投げて、着替えもせずに、ベッドにダイブする。

 今夜はクリスマス・イヴ。

 本当なら今頃は、予約していたレストランで彼と一緒にクリスマスディナーを食べて、そのあと彼の家で年明けに行く旅行の予定をたてるつもりだった。

 それなのに……、待ち合わせ場所に三十分も遅刻して現れた彼は、寒さで震える私の顔を見るなり頭を下げた。

「ごめん、今日の予定はなかったことにしてほしい」
「え、何? 急な仕事でも入った?」

 戸惑う私に、彼はまた「ごめん」と頭を下げた。

「ずっと言おうと思ってて、でもなかなか切り出せなくて……ほかに、好きな人ができた」

 職場の最寄り駅近くのカフェの前。情けなく声を震わせて、低く頭を下げる彼の襟足を見つめながら、悪い夢でも見ているのかと思った。だけど、それは夢なんかじゃなかった。

 付き合って二年になる私と彼は、職場の同期だ。入社したときから仲のよかった彼に告白されて付き合い出し、これまで大きなケンカをしたこともない。半年くらい前から同棲の話も出ていた。交際は順調だった。でも、順調だと思って安心していたのは私だけだったらしい。
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