【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
修学旅行はなんとか終わり、私たちはオリア魔法学園に帰ってきた。
日常が戻ってきたと思いきや、これまで通りの日常にはなってくれなくて、翻弄されている。
◇
放課後になり、温室の薬草たちの世話を終えた私とジルとミカは準備室に向かう。
一見するといままで通りの生活に戻れたような気がするけど、あの日以来、どうしてもノエルのことを意識してしまい、その度に身悶えするのを堪えていた。
それに加えてノエルのスキンシップが増えたような気がしてならなくて。
いや、私が意識していなかっただけで、前もこんな感じだったのかも、しれない。
とまあこんな具合に、ノエルが成すこと全てを自分への好意からなんじゃないかと勝手に予想してしまうおめでたい脳みそに頭を抱えていた。
正直言って、かなり参っている。
青春真っ盛りの学生のように恋に埋没しつつある自分が怖くなるのよね。
いままで恋した時はこれほどまでに悩まされることはなかったのに。
こんな無謀な気持ちを抱き続けてはいけない。
私の恋はいつだってうまくいかないんだから、希望を持ったらそれ相応にダメージを喰らうのが目に見えているもの。
同じ轍を踏んじゃダメよ。
ノエルが私を大切にしてくれるのは、私への恩返しなんだもの。それを望みがあるものと考えていたら、前世で同僚にフラれた時と同じようなことになってしまう。
そんなことを考えていたら、ノエルに婚約を持ちかけた場所に差し掛かっていた。
放課後には夕日が本館を照らす荘厳な景色が一望できる、ノエルの特等席。
そもそも、ここでノエルが婚約を受け入れてくれたこと自体が奇跡なのだ。
普通ではあり得ないくらいハイスペックな高嶺の花が恩返しで婚約者になってくれているんだからこれ以上望んではいけない。……結婚も、このまましてくれる、みたいだし。
だけどそれは愛ではなく恩でそばにいてくれているだけで……そう考えるとまた気が滅入る。
「イケメンでエリートのノエルが私に惚れることなんてないだろうけど、懐いてもらえることくらいはできるかもしれないわよね」
膨れ上がった弱音が溜息と一緒に吐き出された。
「小娘、なにか言ったか?」
「ううん、なんでもないわ」
ジルはじいっと顔を見つめてきたけど、それ以上はなにも言わなかった。
そう、ノエルにだって、なんでもないように接していれば大丈夫なはず。
この先もそばにいたところでノエルに惚れてもらえるとは思っていない。だけど、いま以上に信頼してもらうことはできるはずだから。
信頼が強固になれば見放されることはまずない、はず。
よし、継続して【なつき度】を上げていこう。
そう決意を新たにして廊下を歩いていると、ドーファン先生とすれ違った。
今日は王宮に呼ばれた帰りらしい。
学園に来る前は宮廷治癒師だったドーファン先生は、王宮に呼ばれることがしばしばある。先生は私が学生の時からこの学園にいて、その当時も王子や皇后が体調を崩すとすぐに先生が呼ばれていたのよね。
辞めてからも呼ばれるくらいなんだから、きっと惜しまれながら転職したのかも、なんて考えていたら、先生に呼び止められた。
「ベルクール先生、もう体調は大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。もうすっかり元気になりました」
「まだ無理をしないでくださいね。ベルクール先生になにかあれば、ファビウス先生が大変なことになってしまうんですから」
不意打ちでノエルの名前を言われると頬が熱くなる。
それを見たドーファン先生が口元に手を当てて上品に笑うものだからさらに頬が熱くなってしまう。
「あ、あの、用事がありますので失礼します……!」
用事なんてないけど、早くこのいたたまれない状況から逃げ出したくて嘘をつく。
ドーファン先生の視線が追いかけてくるのを背に感じながら準備室に向かった。
◇
いざ準備室の前に辿り着くと緊張してしまい、すぐには扉を開けられなかった。
ノエルがもう来ているかもしれないと思うとどうしても躊躇ってしまうのよね。
「すー、はー」
「やい、小娘。さっさと扉を開けろ」
「うるさいわね。急かさなくてももう開けるわよ」
準備室の扉の前で深呼吸しているとジルにせっつかられた。少しは私の心を知って欲しい。いや、知られたくないんだけどさ。
意を決して扉を開けるとノエルと一緒にサラとディディエとオルソンがいた。
雑談をしていたようで、みんな楽しそうに笑っている。
「あー! メガネ先生やっと来たー!」
サラは目を輝かせて駆け寄ってきた。
そのまま私の腕を掴み、ノエルの隣に座らせると満足げな顔をする。
修学旅行を終えて、彼らとの関係にも変化があった。
オルソンが積極的にメインキャラたちと絡むようになり、なぜかその流れで、みんなで準備室に遊びに来てくれるようになったのよね。
おかげでメインキャラたちの動向が掴めて助かるんだけど、いまのところは個別ルートを示唆するような変化が見られない。
「はいは~い! レティせんせに報告がありま~す! 王国史の課題でグーディメル先生に褒めてもらえました~!」
「グーディメル先生が褒めるだなんて滅多にないことよ?」
そう言うと、オルソンは照れ臭そうに笑った。
引き続き密偵をさせられているオルソンだけど、当の本人は全くやる気がなく、「このままノックスに永住するつもりだから兄上の命令は話半分で聞いとく」なんて言っている。
あの魔王みたいなお兄ちゃんの命令に背いて大丈夫なわけがないと思うんだけど、だからと言って私から密偵を促すわけにもいかず、このことにもまた頭を悩ませているわけで。
「ドルイユ、教師に対して馴れなれしいぞ。呼び方を改めなさい」
「あれあれ~? ファビウスせんせー妬いてるんですか?」
時おり、ノエルとオルソンの間にある空気が張り詰めるのにもまた、頭を悩ませている。
日常が戻ってきたと思いきや、これまで通りの日常にはなってくれなくて、翻弄されている。
◇
放課後になり、温室の薬草たちの世話を終えた私とジルとミカは準備室に向かう。
一見するといままで通りの生活に戻れたような気がするけど、あの日以来、どうしてもノエルのことを意識してしまい、その度に身悶えするのを堪えていた。
それに加えてノエルのスキンシップが増えたような気がしてならなくて。
いや、私が意識していなかっただけで、前もこんな感じだったのかも、しれない。
とまあこんな具合に、ノエルが成すこと全てを自分への好意からなんじゃないかと勝手に予想してしまうおめでたい脳みそに頭を抱えていた。
正直言って、かなり参っている。
青春真っ盛りの学生のように恋に埋没しつつある自分が怖くなるのよね。
いままで恋した時はこれほどまでに悩まされることはなかったのに。
こんな無謀な気持ちを抱き続けてはいけない。
私の恋はいつだってうまくいかないんだから、希望を持ったらそれ相応にダメージを喰らうのが目に見えているもの。
同じ轍を踏んじゃダメよ。
ノエルが私を大切にしてくれるのは、私への恩返しなんだもの。それを望みがあるものと考えていたら、前世で同僚にフラれた時と同じようなことになってしまう。
そんなことを考えていたら、ノエルに婚約を持ちかけた場所に差し掛かっていた。
放課後には夕日が本館を照らす荘厳な景色が一望できる、ノエルの特等席。
そもそも、ここでノエルが婚約を受け入れてくれたこと自体が奇跡なのだ。
普通ではあり得ないくらいハイスペックな高嶺の花が恩返しで婚約者になってくれているんだからこれ以上望んではいけない。……結婚も、このまましてくれる、みたいだし。
だけどそれは愛ではなく恩でそばにいてくれているだけで……そう考えるとまた気が滅入る。
「イケメンでエリートのノエルが私に惚れることなんてないだろうけど、懐いてもらえることくらいはできるかもしれないわよね」
膨れ上がった弱音が溜息と一緒に吐き出された。
「小娘、なにか言ったか?」
「ううん、なんでもないわ」
ジルはじいっと顔を見つめてきたけど、それ以上はなにも言わなかった。
そう、ノエルにだって、なんでもないように接していれば大丈夫なはず。
この先もそばにいたところでノエルに惚れてもらえるとは思っていない。だけど、いま以上に信頼してもらうことはできるはずだから。
信頼が強固になれば見放されることはまずない、はず。
よし、継続して【なつき度】を上げていこう。
そう決意を新たにして廊下を歩いていると、ドーファン先生とすれ違った。
今日は王宮に呼ばれた帰りらしい。
学園に来る前は宮廷治癒師だったドーファン先生は、王宮に呼ばれることがしばしばある。先生は私が学生の時からこの学園にいて、その当時も王子や皇后が体調を崩すとすぐに先生が呼ばれていたのよね。
辞めてからも呼ばれるくらいなんだから、きっと惜しまれながら転職したのかも、なんて考えていたら、先生に呼び止められた。
「ベルクール先生、もう体調は大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。もうすっかり元気になりました」
「まだ無理をしないでくださいね。ベルクール先生になにかあれば、ファビウス先生が大変なことになってしまうんですから」
不意打ちでノエルの名前を言われると頬が熱くなる。
それを見たドーファン先生が口元に手を当てて上品に笑うものだからさらに頬が熱くなってしまう。
「あ、あの、用事がありますので失礼します……!」
用事なんてないけど、早くこのいたたまれない状況から逃げ出したくて嘘をつく。
ドーファン先生の視線が追いかけてくるのを背に感じながら準備室に向かった。
◇
いざ準備室の前に辿り着くと緊張してしまい、すぐには扉を開けられなかった。
ノエルがもう来ているかもしれないと思うとどうしても躊躇ってしまうのよね。
「すー、はー」
「やい、小娘。さっさと扉を開けろ」
「うるさいわね。急かさなくてももう開けるわよ」
準備室の扉の前で深呼吸しているとジルにせっつかられた。少しは私の心を知って欲しい。いや、知られたくないんだけどさ。
意を決して扉を開けるとノエルと一緒にサラとディディエとオルソンがいた。
雑談をしていたようで、みんな楽しそうに笑っている。
「あー! メガネ先生やっと来たー!」
サラは目を輝かせて駆け寄ってきた。
そのまま私の腕を掴み、ノエルの隣に座らせると満足げな顔をする。
修学旅行を終えて、彼らとの関係にも変化があった。
オルソンが積極的にメインキャラたちと絡むようになり、なぜかその流れで、みんなで準備室に遊びに来てくれるようになったのよね。
おかげでメインキャラたちの動向が掴めて助かるんだけど、いまのところは個別ルートを示唆するような変化が見られない。
「はいは~い! レティせんせに報告がありま~す! 王国史の課題でグーディメル先生に褒めてもらえました~!」
「グーディメル先生が褒めるだなんて滅多にないことよ?」
そう言うと、オルソンは照れ臭そうに笑った。
引き続き密偵をさせられているオルソンだけど、当の本人は全くやる気がなく、「このままノックスに永住するつもりだから兄上の命令は話半分で聞いとく」なんて言っている。
あの魔王みたいなお兄ちゃんの命令に背いて大丈夫なわけがないと思うんだけど、だからと言って私から密偵を促すわけにもいかず、このことにもまた頭を悩ませているわけで。
「ドルイユ、教師に対して馴れなれしいぞ。呼び方を改めなさい」
「あれあれ~? ファビウスせんせー妬いてるんですか?」
時おり、ノエルとオルソンの間にある空気が張り詰めるのにもまた、頭を悩ませている。