《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます

明らかになるバルカス王子の所業

 巨額とはいえ、王子のバルカスの個人資産の規模からすれば支払えない金額ではなかった。

 だが、あまりにも大きな慰謝料の支払いをバルカス王子は渋った。

 それに期日になってもマーゴットが何も言ってこなかった。
 ならばもう終わった、やりすごせたと油断していたところに、それは来た。



 カレイド王国の王都新聞社に、これまでのマーゴットに対する王子の暴挙がすべて証拠資料付きで掲載されたのだ。

 投稿者は、匿名。

 テオドア法務官か雑草会の仕業と思われる。

 新聞を見たマーゴットにはすぐピンときた。



 即日、マーゴットは国王に呼び出された。

「マーゴット! お前は何ということをしてくれたのだ!」

 同じ燃える炎の赤毛を逆立てて伯父の国王に叱責されたが、とんだ言いがかりだ。

「お言葉ですが、陛下。オズ公爵家は仮とはいえ王太子の婚約者への支度金もなく、乏しい王家からの支援金もない中やりくりしている困窮した家です。これほど詳細な情報収集を行う経済力はございません」

 支度金や支援金がない? とそこで国王が違和感に気づいた。

「何を言っておる。毎月、公爵家への支援金と併せて王太子の婚約者のための品格維持費を支給しておるだろう」

 来た、とマーゴットはこの機会を待っていた。

「……申し訳ございません、国王陛下。何を仰っておられるのかわたくしにはわかりかねます。『王太子の婚約者のための品格維持費』など、わたくしも公爵家も、少なくともこの数年は一切頂戴しておりません」
「何だと!?」

 そこでマーゴットは、テオドア法務官から受け取っていたバルカス王子の素行調査と、王家からの支援金等の着服調査の結果資料を国王に提出した。

 資料には、マーゴットのオズ公爵家への支援金等はすべて、バルカス王子が例の平民女ポルテや取り巻きたちと遊ぶ金に着服していたことが詳細に記されている。

 これにはさすがの国王も血の気が引いて倒れそうになった。

 報告書を見た宰相の顔色も悪い。
 宰相の場合は、報告書をまとめたのが自分の嫡男テオドアであることと、バルカス王子と一緒になって着服した側近が下の息子である事実も併せて衝撃だろう。

「ご存知なかったと申されますのね。わたくしと子を成さねば崩壊する王家でありながら、この扱い。何と無体な」
「す、済まぬ! だが知らなかったのだ! 本当だ!」

 知らなければ許されるのだろうか?
 それは違うだろうと、冷めた頭でマーゴットは思った。

「わたくしに対して興味が薄くていらっしゃるようで」
「だ、だが、お前とて王太子の婚約者でありながら滅多に王宮に来なかったらではないか! デビュタントを済ませた貴族令嬢でありながら社交パーティーに顔を見せることもない、王妃の茶会に参加もしない。それでは我らとて気にかけるも何もない!」

 ここまでの経緯で、それがなぜかはすぐわかったはずなのだが、興奮している国王は事実に気づいていない。

「人前に出られるような服がございませんの」
「……なに?」

 マーゴットの冷静な口調の言葉で、それで少し国王の興奮が収まったようだ。

「屋敷はとうに売り払いました。両親の形見もわたくしのドレスも宝石も、もうほとんど手元にございません」
「だ、だが、ならば今のお前が纏っているドレスは何なのだ?」
「たまたま、体型や裾の調整がしやすい最後の一着だけ残してあったものですわ。……もっとも、古い上に、見えないところは染みだらけですけれども」

 両親が亡くなってから三年近く経っている。
 それからマーゴットは社交界に出られるクオリティのドレスなど一着も新しく買えていない。

 このような現状だから、マーゴットは自分の次期女王教育は王宮ではなく、学園の特別室に講師を招いてもらって受けていた。
 学園ならばドレスは必要ない。制服のままで良いので。

「両親と過ごした思い出の屋敷も手放しました。使用人はもう二人しかおらず、給金も支払えませんから他家に出稼ぎに出ております。学園に支払う学費もないので、このまま休学から退学になるかと思います」

 辛うじて休学中だから学費はかかっていない。実は復学も難しい状況だった。

「や、屋敷はすぐに買い直させる」
「もう遅いのです。古い家でしたからとうに取り潰されて敷地は更地になっておりましたわ」

 それすらご存じないのですね、とマーゴットは冷たい目で国王を見た。

「もう後は家の爵位を返上して平民に下るしかありませんわね? ……ふふ、おかしいですね。こんな貧乏人なのにわたくし、この国で一番尊い血筋の女だそうですの」

 マーゴットは懐から多角形の透明な石の魔導具を取り出す。
 雑草会から借りてきた“血筋チェッカー”だ。

 顔に近づけると、額の真ん中に大きく数字の1が浮かぶ。

「血筋順位一位、オズ公爵家のマーゴットですわ。なのに、この扱い。なぜなのでしょう?」

 そう、幾度となく繰り返したループ人生の中で、それだけがマーゴットにとって不思議だった。

「なぜ、わたくしはここまで貶められなければならなかったのでしょうか?」
「………………っ」

 言って、マーゴットはその場にいたバルカス王子を見た。

 マーゴットの冷えた視線を受けて、バルカスがビクッと身体を震わせたが、何も反論はしなかった。できなかった。

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