赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
 山中湖の湖畔では紅葉祭りが開催されていた。
 暮れかけた日を背に会場に着くと、たくさんの露店が並び、人々がにぎやかに行き交っている。数か所に焚火がたかれ、見た目にも温かく人々を明るく照らしている。
 その火に長い棒を差し出して和やかに笑い合う人たちがいる。
「マシュマロだわ」
「ほしい?」
 聞かれて、千枝華は即座に頷く。
 店に並ぶ間にも、千枝華はわくわくと焚火を眺めた。
 二人でマシュマロを買い、長い棒についたそれを火にかざす。
 が、すぐには焼けない。
 じれったくて、千枝華は炎に直接マシュマロをつっこむ。
 直後、マシュマロが燃え上がった。
「どうしよう!」
 千枝華が焦ると、将周は苦笑して自分のマシュマロで押さえて火を消す。
 なんとか鎮火して、千枝華は少し焦げたそれを食べる。口の中でふわりと溶けて、甘さが口いっぱいに広がった。
「おいしい!」
 将周は千枝華の笑顔に満足そうな笑みを浮かべ、自分のマシュマロを口にする。
「あつっ!」
「大丈夫?」
 大丈夫、と将周は笑った。
 二人は何度も焦がし、そのたびに笑って口に頬張った。
 屋台で軽く腹ごしらえをすると、二人は手を繋いで散策路へ向かった。
 さながら赤金(あかがね)の回廊だった。
 すでに日は沈んでいるが、ライトアップされているので、足元に不安はなかった。
 二人が歩を進めるたびに影が伸びては短くなる。
 すぐ横にある山中湖は木々に隠されて見えない。
 空気は冴えて、いっそ寒いくらいにさわやかだ。
 夜を彩るのは星ではなく朱金の木の葉。
 頭上はるかにそびえる紅葉が空を埋め尽くし、照明を受けてきらめくようにも燃えるようにも輝きながら二人を見下ろしていた。
 アップダウンとともに曲がりくねっている散策路は歩を進めるごとに見え方が変わる。深く重なる葉の茂みに濃淡があり、光によって黄金から深紅へのグラデーションが生まれ、絢爛たる威容を誇る。間近にまで迫る赤い葉も大きな幹も迫るように視界を埋め尽くす。
「山(よそお)う、だっけ」
 奥行きのある紅に包まれ、千枝華はうっとりと木々を見上げる。
郭煕(かくき)の漢詩だね。春は「山笑う」、夏は「山(したた)る」、秋は「山粧う」、冬は「山眠る」。季節ごとの表現がおもしろいよね」
「でも、よそおうだけでは足りないわ、こんなにきれい」
「千の枝が華やか。君の名前の通りだな」
 紅葉を見ながら将周が言った。
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