赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
「お父さんに聞いたよ。紅葉があまりにも美しかったから名前にしたんだって」
 千枝華も聞いたことがあった。父と母が初デートに行ったのが紅葉で、彼女が生まれたときにはそれにちなんで名前をつけたのだと。
 奇しくも千枝華と将周の初デートも紅葉だった。
「名前負けだわ」
「そんなことはない。君は綺麗だ」
 真顔で言われて、千枝華は照れた。つなぐ手にぎゅっと力をこめる。
「こういう形で来ることになるとは思わなかったな」
 将周は少し残念そうにつぶやいた。
「どういう形でも一緒に来られてうれしいわ」
「いつも前向きに言ってくれるね。そういうところに俺は支えられている」
 千枝華は意外な言葉に目を見開いた。将周は優しい笑顔を彼女に向ける。
「気付いてなかった?」
「ぜんぜん……」
 時間差で、胸にうれしさが満ちる。彼の支えになっているのなら、そんな喜ばしいことはない。
「あいつ、本当に仕事に失敗してるな」
「どうして?」
 大和のことを言っているのだと察してたずねる。将周の優しい目が千枝華を見つめる。
「俺は君への想いが強くなった」
 千枝華はどきっとして将周を見つめ返す。
 気が付けば周囲に人はおらず、二人きりだ。
 はらり、と色づいた葉が舞い落ちる。
 将周が彼女の手を引き、立ち止まらせた。
「君が好きだ。愛してる。高校生のときからずっと」
 彼はまっすぐに千枝華を見る。
「君が周りを気にして無理しているのは気付いていた。君が納得できるのなら、と思って見守って来たつもりだ。だが、もうそれはやめてほしい。無理なんかしなくても、君は俺の隣に立っていてほしい人なんだ」
 千枝華は将周から目を離せない。
「今まで、きちんと言っていなかったかもしれない」
 千枝華の胸がどきどきと高鳴った。紅葉はもう目に入らない。将周だけが視界のすべてだ。
「俺と結婚してほしい」
 千枝華は息を呑んだ。
「嫌なら断ってくれていい。親父たちの仕事は気にしなくていい。そもそも君とのお見合いを申し込んだのは俺なんだ」
 お見合いは父親たちの都合だとばかり思っていた。相手が将周だったのは偶然に過ぎないのだと。
「承諾してくれたから、それでいいと思っていた。だが、君がもし……」
「嫌です」
 言葉を遮り、千枝華は言った。
 将周は顔を険しくして彼女を見返す。
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