極上御曹司の純愛〜幼なじみに再会したら囲い込まれました〜
「お気遣いなく。そんなことをしたらあなたが汚れてしまいます」
「でも、このままだと染みが広がるので」

私の不注意で汚してしまったのになんて優しい人なんだろう。

「でしたらタオルがあるので、これを使ってください」

園児のお散歩用にいつもタオルを持参している。今日は特に使っていなかったため、気軽にそれを差し出したのだけど……

「いえ、ほんとに結構ですから」
「でも――」

言われてみると知らない人の使った物を使用するのを嫌がるのは当然だ。
そしてよく見れば仕立てのいい高級そうなスーツ。良かれと思って下手に拭いてしまうと、逆に汚れが落ちないかもしれない。

「私がボーっと歩いていたせいで本当にすみません! クリーニング代など諸々すべて弁償しますので、ご迷惑でなければご連絡先を教えていただけないでしょうか」
「いえいえ、私も考え事をしながら歩いてたので、あなただけのせいじゃないです。気にしないでください」
「お願いします。せめてクリーニング代だけでも払わせてくださいっ」

そんなやりとりをしている間にも生クリームは容赦なく染みを広げている。それはスーツだけじゃなく、ピカピカに磨かれた靴にまで及んでいた。
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