『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
第四章

 翌朝ホテルで目覚めると、隣には誰もいない。
「礼二さん?」
 佳奈は昨日の服を拾い上げて身に着ける。浴室にも礼二の姿はなかった。代わりに、テーブルにはメモが置いてある。
『ゆっくり休んで欲しい、今日も突然仕事が入ることになった。しばらく忙しくなるため、また連絡する』
 礼二らしい几帳面な字で書いてある。
(礼二さん、仕事だっていうけど。年末なのに、こんなにも忙しいの?)
 思い返せば、礼二の仕事のことも詳しく聞いたことがない。彼がどの部署にいるとか、休日出勤をするほどの忙しさとは何なのかさえわからない。礼二に聞いても、どこかはぐらかされていたような気がする。
 愛されていると思っていたけれど、もしかすると違うのだろうか——。ほんの些細なすれ違いが、佳奈の心に疑念を抱かせた。
(もしかして、一度でも抱いたら終わりとか?)
 突然、礼二のことがわからなくなっていく。佳奈は一気に暗闇に放り投げられたように、不安に覆われて顔を曇らせた。

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