厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 勢い込んでまくし立てたが、最後まで語り終えることなく萎んでいった。水晶のような紫の視線が凄みを増し、黙らせたからだ。
 誰もが震え上がるほど冷たい声で、ライズは言った。

「私の所有物を勝手に貶めたこと。皇帝への侮辱と受け止めるが?」
「そ、そんな……」

 カーネリアは青ざめて、その場に座り込んだ。
 小さくなった令嬢には目もくれず、ライズはフランのそばに歩み寄った。

「行くぞ。これから出かけるときは、私に声をかけてからにしろ」
「は、はい、陛下……」

 手の平を差し出されたので、吸い寄せられるようにそっと指先を重ねる。
 子飼いの令嬢を言い負かされて悔しい気持ちがあったのか、皇太后が椅子から立ち上がり、声を張り上げて言った。

「ライズ。あなた、どういうつもり? どうせ離宮の姫たちを解散させたくて、その娘を利用しているんでしょう!」

 ライズはその問いには答えなかった。
 フランは力強い手に引かれ、足を踏み出す。並んで歩きながら、高貴な横顔をちらりと見上げた。

(陛下……。また私を助けてくださった……)

 ドキドキと胸が高鳴り、言葉にならない高揚感と、感謝の気持ちが溢れてくる。
 たとえ利用されていても構わない。ならば彼の期待に応え、認められるように自分を磨いていきたい――。
 生まれて初めて芽吹いた希望は、昨日までより、世界を明るく見せてくれた。
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