厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 振り向けば、庭園の出入り口に姿を見せたライズが、豪奢なマントをひらめかせ、存在感たっぷりに歩いてくる。
(陛下……)
 フランの胸に、なぜか灯火のような温かい気持ちが宿った。
 周囲に満ちていた敵意が弱まり、代わりに緊張感が場を占めたのを感じる。

「母上。フランになにかご用事ですか」
「見ればわかるでしょう。有望な皇妃候補たちと、懇親を深めていたところなのよ」

 ライズの登場に驚いた表情を見せた皇太后だったが、すぐに悪びれない様子で答える。
 ライズはにこりともせず、生垣のように並ぶ令嬢たちを一瞥した。

「それにしては空気が悪いようですが」
「……あなたが囲い込んだ王女に、悪い噂があったのよ。わたくしが城に招いたのだから、呼び出して人となりを確かめるのは当然のことでしょう」
「ほう……? その悪い噂とは?」

 皇太后が取り巻きのほうへ視線を送ると、意気揚々とカーネリアが進み出た。

「陛下は、その女の色香に惑わされているのです! どうか目をお覚ましくださいませ。そんな気品も学もない、芋くさい王女など、帝国貴族であるわたくしたちに比べたら……」
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