厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 使用人から伝え聞いた話と、持ち前の想像力で補完したイメージによれば、皇位を狙う血縁者たちは文字どおり、血みどろの争いを繰り広げたようだ。
 正統な後継者であり、まだ若かったライズが、自分の命を守るために心を鬼にし、誰よりも強く厳しくある必要があったことは想像に難くない。

 遠く離れたシャムールまで、「怪物」だと偏った噂が届くほど、冷厳たる鎧で身を固めた当代皇帝。
 そんな彼は、今は全軍の敬礼を浴びながら、きりりと引き締まった横顔を見せている。

(陛下は厳しいけれど、公平で、上に立つにふさわしい方のように思える……)

 フランの目に映る豊かな国の景色は、ライズによって守られ、育まれたものなのだろうと思えた。

「フラン様、このあとは皇帝陛下が国の繁栄と戦の勝利を祈願し、掲げた杯を口にされ、式典は終了となります」

 小声で囁くサリーの解説のとおり、ステージの脇では乾杯の準備が進められている。
 黄金色に輝く杯に神酒が注がれ、盆に乗せられて運ばれていく様子をなにげなく眺めて――流れの変わった風向きの中、ふとした違和感に首を傾げた。
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