厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「陛下っ……! お待ちください、その杯は……」

 最後まで言い終える前に、腕を掴まれて地面に倒されてしまった。周囲に控えていた警備兵によって取り押さえられたのだ。
 硬い地面に押しつけられ、打ちつけたところが痛くて涙が滲む。
 それでも顔を上げ、ライズの無事を確かめようと視線を向けると、彼は杯には手を触れず、目を見開いてこちらを見つめていた。

(よかった、間に合った……)

 気を抜くのは早いとばかりに、頭のうしろから警備兵の怒声が降ってくる。

「式典の邪魔をする不届き者め! すぐに引っ立てて取り調べを――」
「いや、待て」

 数メートル離れた位置からでもよく通る声で、ライズが警備兵を制止する。
 その間、運び手の侍女は、静かにその場から離れようとしていた。騒動に怯えて下がるという一連の動きに怪しいところは見られなかったが、ライズは素早く手を伸ばし、侍女の腕を掴んだ。

「えっ……?」
 驚く侍女が持つ盆の上の杯を取り上げると、すぐそばの地面で鳥が食べていた撒き餌に液体を振りまく。
 すると、乾杯の演出と同時に元気に飛び立つはずだった白い鳥たちが、バタバタと倒れ始めた。
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