厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「側妃でもすごいことではありませんか。陛下は、フラン様のことを大切に思われていると思います。それに、こう言ってはなんですが……もし、もしですよ? フラン様が陛下との御子をお産みになられれば、生母であるフラン様の立場は揺るぎません。正妃との差なんて、肩書きの違いでしかなくなるんです!」

 帝国の制度では、そのとおりかもしれない。この国にとって重要なのは、誰が皇妃になるかではなく、世継ぎを産めるかどうかなのだ。
 権力に興味はないが、愛する人との子をもうけられれば、それだけで幸せかもしれない、とは思う。世界的に見ても一国の王が複数の妻や愛人を持つことは珍しくないし、公に一夫多妻制が認められている国もたしかに存在している。

 けれども祖国シャムールでは一夫一妻が美徳とされ、不倫は厳しく非難されるべき背徳行為とされていた。法にもきちんと定義づけられており、たとえ王族であっても例外ではない。
 そんな国で育ったフランとしては、できれば「ただひとりの人」と言い合える関係を作りたい。
 市井の民と同じく互いに誓いを立て、深く愛し合い、家族を作る。このような庶民的な考えが「皇妃になる器ではない」ということなのかもしれないが、それこそがずっと思い描いていた理想の未来だ。

 どちらにせよ、いずれ心を決めなければいけないだろう。そして時間の猶予も、おそらくはあまり残されていない。
< 188 / 265 >

この作品をシェア

pagetop