厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 驚いて振り返ると、先ほどまでとは別人のように冷たい表情を浮かべた母が、腕を組んでこちらを見下すように立っている。

「フフッ。バカねぇ、フラン。あなたが嫁ぐのは帝国ではなく、西の国よ」

 ざらりとした声音。肌が粟立ち、嫌な予感が胸に広がった。

「……どういう……ことですか?」

 しかし、返ってきたのは嘲笑と、耳を疑うような命令だった。

「ウェスタニアのさる高貴なお方がね、先祖返りであるあなたを研究したいのですって。引き渡せば、わたくしたちを帝国の支配から解放し、もっと贅沢な暮らしをさせてくださるとおっしゃっているの。そんないい話、乗るしかないわよね? ……さぁアルベール、指示どおりにフランを捕まえてここを出るのよ」
「そんな……嫌です! 私は、西の国になんて……」
「あとのことは心配しなくて大丈夫よ。幼馴染の騎士と密会して逃げたことにしておくから。裏切った婚約者の代わりに、娘のマーガレットが慰めて差し上げれば、皇帝陛下もいっそう満足されることでしょう」
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