厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

溺れるほどの愛(2)

       *

 結婚式を終え、晴れて夫婦となったふたりは、これから初夜を迎える。
 皇帝の部屋と皇妃の部屋を繋いでいる内扉の前で、フランはごくりと唾を飲んだ。

 このような通り道があることは知っていたが、いつもライズは用事があるときにはきちんと正面の出入り口から訪ねてきていたし、内扉には施錠がなされていたので一度も使ったことはない。
 今夜から床を共にしようと約束を交わしたときに、初めてふたつの部屋の間に「夫婦の間」というものがあることを知らされた。そこは、いわゆる共同の寝室であるらしい。

 念入りに肌を磨き、すでに就寝の準備を整えたフランは、思い切ってドアノブに手をかけ、鍵のはずされた扉を開けてそっと中を覗いた。ライズがまだ来ていないことを確認し、わずかに緊張を緩めて部屋の中へと歩みを進める。

 この特別な敷居をまたぐ日が来るなんて、想像もしていなかった。彼から言われるまで思いつきもしなかったくらいだ。
 少し明かりを落とした部屋の中央には、ふたりで寝ても余りあるキングサイズのベッドが置かれている。それ以外に落ち着けるような場所は見当たらなかったため、ちょこんとベッドサイドに腰かけて待つことにした。
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