厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 令嬢たちは踊り場のあたりで足を止めると、フランを見下ろし、頭の先からつま先まで舐めるように眺めた。

「ふぅん……なんだかみすぼらしい格好ね。どちらのご出身かしら?」

 問いかけてきたのは、薔薇のような真紅のドレスを着こなした艶やかな女性。くっきりと引いた口紅と高く結い上げた金髪は、とてもゴージャスで迫力がある。

「東の海にある島の、シャムール王国という国から参りました」

 フランが素直に答えると、集団の中からクスクス、と笑い声が上がった。

「お聞きになりまして? カーネリア公爵令嬢様」
「きっととんでもないド田舎ですわ」

 カーネリアと呼ばれた令嬢は取り巻きの囁きを受け止めつつ、唇の端を上げて言う。

「シャムール……どこにあるのか知らないけれど、陛下が先日、支配下に置いた小さな島のことね。王国ということは、あなたは一応、王女かなにかなのかしら?」
「はい、一応……」

 するとカーネリアのそばにいた群青色のドレスを着た令嬢が、鋭い目つきを向けてきた。

「王女といっても……ねぇ。帝国の由緒ある家門の出であるカーネリア様や、このわたくし、ブルーネル侯爵家と同じレベルと思われては困りますわね」

 今度はその隣に立つ黄色いドレスの令嬢が、小悪魔的な笑みを浮かべて合の手を入れてくる。

「まぁまぁ、ブルーネル侯爵令嬢様。なにもわからないおのぼりさんのようですし……。新人さん、わたくしの出身はコーラル伯爵家よ。ここにいる皆様方は、お父君がこの国の重職についている立派なお家の出なの。くれぐれも敬意を忘れずに、ルールを守って過ごしましょうね?」
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