縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
その姿に薫子の胸が傷んだ。
この兄弟は千桜や冴子とは違う。

本当に飢えで苦しんでいる。
その結果やってしまったことだった。

このやせ細った体では石段を上がってくることだってしんどかったはずだ。
薫子が切神の前に出て兄弟へ手を差し伸べようとした、そのときだった。

「許してやるから、さっさとここから出ていけ」
その冷たい言葉に薫子は信じられない気持ちで切神を見つめた。

切神は兄弟へ向けて凍りつくような視線を向けている。
それは薫子が見てもたじろいでしまいそうな視線だ。

「切神さま、ふたりはまだ幼い兄弟です。それにお腹をすかせています」
薫子はすかさず兄弟をかばうように立った。

切神を見上げて睨みつける。
「ここは神聖な場所だ。窃盗犯が来ていい場所じゃない」
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