縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
「もちろんです。このふたりは切神さまのおかげで病が治ったんです。ふたりともぜひ恩返しがしたいそうです」
薫子はそう言うと二人へ向けて目配せをしてみせた。

大志がハッとしたように居ずまいを正すと、畳に額をこすりつけて「ぜひ、恩返しをさせてください!」と申し出る。
隣の勇も同じように「おんがえしさせてください」と、たどたどしく言った。

これではさすがの縁切りの神様でも断ることは難しいだろう。
なによりこのお願いは薫子の願いでもある。

「これほどまで沢山の縁ができたのは始めてのことだ。薫子にはまいったものだ」
これで兄弟がここで働けることは決定したようなものだ。

兄弟がその場でとびはねて喜んでいる。
「切神さま、それについてですが……」

薫子は体の向きを変えて切神の右手を握りしめた。
それを自分の腹部へもってくる。

暖かくて柔らかな感触が切神の手のひらに伝わってきた。
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