縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
「ありがとう」
薫子は火の頭部を優しくなでた。

指が触れても熱くはない。
火は嬉しそうに薫子の肩の上で踊った。

それから本殿へと向かうと先程聞こえてきた男性たちの声が大きく聞こえてくる。
「お願いします。返してください」

「お願いします」
本殿の扉の隙間から外の様子を伺うと、千桜と冴子の父親が額を地面にこすりつけるようにして願掛けしているのが見えた。

咄嗟に出ていこうとしたが、寸前のところで思いとどまる。
ふたりはこれほどまでなにを願掛けしているのか気になったのだ。

「お願いします切神様。娘を、千桜を返してください」
「貴方様へのご無礼をお許しください。冴子を返してください」

そういうふたりの目には涙が浮かんでいて薫子は数歩後ずさりをした。
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