縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
まさかまた村でなにか起こったのではないかと気が気ではなくなってくる。
薫子が布団から出ようとしたのを、切神が止めた。

「行かないんですか?」
「昨日のふたりの父親だ。行く必要はない」

そう言われてよく耳をすまえてみれば確かに聞いたことのある声だとわかる。
「千桜と冴子のお父様が、どうしてこんな時間にここに?」

疑問をそのまま口にしても切神はなにも答えてくれなかった。
それどころか寝息を立て始めている。

千桜と冴子の父親がどうしてこんな時間にここへ?
その疑問は香るこの中でどんどん膨らんでいって、やがて我慢ができなくなって立ち上がった。

障子を開けると雨戸の向こうでは太陽が姿を見せ始めているが、思っていた通り霜が降りる寒さだ。
奥深いこの地では11月はもう真冬に近い。

薫子が軽く身震いをすると部屋の中を浮かんでいた火がひとつ薫子の方に乗っかった。
それだけで全身が暖かさに包まれる。
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