紅色に染まる頃
「はい、どうぞ」

慣れた手つきで伊織が美紅をマンションのラウンジに促す。

「ありがとうございます。わあ、ここに来るのは久しぶり」

美紅は月を振り仰いでうっとりする。

「今日は外の空気も心地良いし、ここを開けようか」

壁一面のガラス扉を、伊織がゆっくりと開ける。
その先はテラスになっており、テーブルと椅子が2つ並んでいた。

「とっても気持ちいいですね」
「ああ。そう言えばもうすぐ花火大会があるんだ。ここからもよく見えるよ」
「そうなのですね!素敵」

冷たいアイスティーを飲みながら、星空を眺める。
すると伊織がクスッと笑った。

「え、なあに?」
「いや、だって。ここに来ると美紅は俺のことなんか全く目に入らなくなるから。ずっとうっとりしながら外を眺めてる」
「あ、ごめんなさい」
「いいよ。そんな美紅の優しく微笑む横顔を眺められるのも、俺としては嬉しいからさ」

そして伊織はふと思い出したように言う。

「美紅。結婚したら二人でここに住まないか?」

え……と美紅は戸惑う。

「本堂家のお屋敷に住まなくてもいいの?」
「ああ。別にそんな決まりはないし、好きなようにしていいって言われてる。用事がある時だけ帰ればいい。二人でここに住む?それとも別に新居を構えたい?」
「ううん、ここがいい!」

美紅の笑顔に伊織も微笑む。

「分かった。でも今度は俺と同じ部屋だからな?」
「あ、は、はい」

頬を染めて小さく頷く美紅に笑いかけると、伊織はジャケットの内ポケットから小さなケースを取り出した。

「美紅。俺から直接君に渡したかったものはこれだよ」

そう言ってケースを開けた。

「まあ!これは……」

月明かりの中、キラキラと眩く輝くダイヤモンドの指輪。

「お見合いの席で結婚を申し込んでしまったけど、改めてプロポーズさせて欲しい。美紅」
「はい」
「俺は君と出会えたことに心から感謝している。結婚なんて、家の為に仕方なく受け入れるものだとずっと思ってきた。誰かを心から好きになることも、一生ないだろうと諦めていた。いずれは親が決めた相手と、穏やかに生活出来ればそれでいいと」

そこまで言うと、伊織はふっと美紅に微笑みかける。

「でもあの日、君と出会ったあの瞬間から俺の人生は変わっていった。最初は、見た目と違う君の行動に驚いて振り回されるばかり。そのうちに、君の信念や生き様に心打たれた。自分の不甲斐なさを恥じて、心を入れ替えて仕事に打ち込んだ。君という、最高に頼れる存在に助けられながらね」
「そんな……」

美紅が小さく微笑んで首を振る。

「いや、俺にとって君は大きな存在だ。どれだけ君に助けられたか。どんなに心強かったか。でもこれからは、俺が君を守っていく。君に頼ってもらえるように、必ず強く大きな存在になってみせる。俺の生涯をかけて、君の幸せを守り抜く。だから美紅、俺と結婚して欲しい」

決意のこもった瞳で真っ直ぐに見つめられ、美紅はしばし言葉を失う。

この言葉だけで、既に自分は伊織に大きく包み込まれ守られていると感じる。

胸の奥にじわっと広がる幸せと喜び。
美紅は目を潤ませながら伊織を見上げた。
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