紅色に染まる頃
「何なんだ、一体…」

愛車を運転しながら、伊織(いおり)は納得いかないとばかりにひとりごつ。

「あんな着物姿で男に立ち向かうとか、何を考えているんだか。しかも俺に対して、余計なことをしてくれたと言わんばかりに…」

先程の出来事と、自分に向けられた勝ち気な瞳を思い出す。

艶やかな紅の振り袖を着こなした奥ゆかしい見た目とは裏腹に、ツンとした表情と冷たい視線。

礼を言われたい訳ではなかったが、まさかあんなセリフを言われるとは思わなかった。

「わたくしが仕留めたまでだ?世間知らずのお嬢様も、ここまでくると恐ろしいな。あのおばあさんも呑気に笑ってないで、もっとしっかり孫娘に教えてやればいいのに。世の中には悪いヤツがいっぱいいて、お嬢様なんかすぐに力でねじ伏せられるって」

あんなので本当に大丈夫か?と、その後もブツブツ呟きながら、伊織は目的地へと車を走らせていた。
< 3 / 145 >

この作品をシェア

pagetop