紅色に染まる頃
プラックのドレスに身を包み、ピアノに向かってジャズの名曲を楽しそうに弾くエレナを、美紅はうっとりと見つめる。

先程着替えてきたエレナは、最初はタイトでセクシーなドレス姿で現れ、ひと目見るなり紘が首を横に振っていた。

「エレナ、そのドレスは駄目。着替えてきて」
「えー、どうして?」
「綺麗すぎる。他の男には見せたくない。今度とびきりのレストランを予約するから、俺とのデートで着ておいで」

美紅がおののいて赤面する中、エレナは嬉しそうに頷いて、いそいそと着替えに戻ったのだった。

(幸せそうだな、エレナさん。兄さんに愛されてとっても嬉しそう)

もともと綺麗なエレナだが、キラキラと輝くようなオーラをまとっているように見えるのは、やはり愛の力なのだろうかと美紅はふと考える。

(ラウンジピアニストをしながらフランス語の通訳もして、本当に憧れちゃう。兄さんと結婚したらお仕事を続けながら家庭を築くのかしら。素敵だな)

自分とはかけ離れた、魅力溢れる女性だと美紅は改めて思う。

恋愛や結婚。
女性なら当たり前のように考えるのだろうが、美紅はなぜだか自分には無縁の世界だと感じていた。

ましてやこんなにも美しく輝くエレナを目の当たりにすると、自分は足元にも及ばないと思わされる。

(ずっと独り身でもいい。私は私の出来ることを精いっぱいやっていこう)

エレナのピアノを聴きながら、美紅はカクテルに気分良く酔いしれていた。
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