紅色に染まる頃
第九章 そうだ!京都へ行こう!
「候補地は日本中どこでもだ。どんな場所でも構わない」

会社の副社長室で、伊織は美紅と早速計画について話をしていた。

新しくホテルを建設することが決まった当初は、単純に海が見えるという理由で、東京と横浜の湾岸地域に建てる予定だった。
だがその計画は全て白紙に戻した。

今日から美紅と一緒に、まっさらな状態でスタートするのだ。

「本堂リゾートが現在持っているホテルは?」
「日本全国の主要都市を中心に74軒ある。どこもラグジュアリーホテルと銘打って、高級感を売りにしている」
「なるほど」
「だがはっきり言って他の高級ホテルと大した違いはない。競うようにレストランをワンランクアップさせたり、エステやスバを充実させたりしたけど、微々たる違いで特別感もない」

伊織の説明に、美紅はしばらく思案する。

「分かりました。この資料はもう結構です」
「え?もう見ないの?」
「はい。雑念が入りそうなので」
「そ、そう。分かった」

きっぱりと言い切る美紅に従って、伊織は既存のホテルのパンフレットや資料を全て片付ける。

広くなったテーブルに美紅は日本地図を大きく広げた。

「本堂様。今回は本堂リゾートのホテルをどこかに増やすというのではなく、小笠原とタッグを組んで一つの宿泊施設をじっくり造り上げていければと存じます」
「ああ、私もその考えだ。まずは今までの概念を取り払い、どこかにターゲットを絞って、そこでしか味わえない価値のあるものを造ろう」
「はい。そして小笠原が関わるからには、やはり古き良き日本の伝統を感じられる空間がよろしいかと」
「そうだな。小笠原家が見立ててくれるなら説得力がある」

すると、ふと美紅が顔を上げて何やら思案し始めた。

「ん?どうかした?」
「本堂様、先日のマンションに案内して頂けませんか?森の中の、低層レジデンスの」
「え、ああ。分かった」

そして須賀の運転で、美紅と伊織はマンションに向かった。
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