紅色に染まる頃
「この屋敷は安土桃山時代の茶室に始まった日本建築様式の一つ、数寄屋造りですわ」

同じく浴衣姿の美紅が、部屋を見渡しながら言う。

「内面から客人をもてなすいう思想のもと、質素ながら洗練されたものや、素朴に見えて高度な技術を要するものが採用されております。丸太や竹など、自然素材の建材を組み合わせたり、雪見障子や組子障子などのデザインにも工夫が凝らしてあります。ちなみにこの丸太は、自然の肌をそのまま生かし、表面を滑らかに磨き上げた『磨き丸太』でございます」
「なるほど。無駄なものを削ぎ落とし、究極までシンプルにした中に美しさを見出す千利休に通ずるものがあるな」
「ええ。自然との調和が楽しめるので、お庭を眺めるのにも良いお部屋ですわ」

春代が振る舞ってくれる美味しい和食を味わいながら、美紅は伊織に説明する。

「書院造りを元としながらもその堅苦しさを開放した数寄屋造りは、風流でありながら繊細、質素かつ洗練された意匠が特徴的です。それに特に決められた形式がありませんので、1から自分達の想いを込めつつ造り上げていけるかと」

美紅の言葉に、伊織は思わずニヤリとする。

「つまり君は、本堂リゾートが取り組むべき新境地が既に見えていると?」
「あら、そうおっしゃる本堂様こそそうなのでは?」

ツンと勝ち気な表情をみせる美紅に、伊織は思わず苦笑いする。

「参ったな、認めよう」

そして真剣に真正面から美紅を見つめる。

「我々の新たな挑戦はこれだ。京都に隠れ家のイメージで宿を造る。コンセプトは『贅沢な時間』だ」

はい、と美紅も大きく頷いた。
< 46 / 145 >

この作品をシェア

pagetop