紅色に染まる頃
第十三章 温かく頼もしい存在
静かな車内で、美紅は窓の外をじっと見つめていた。

あの後、伊織の両親にも謝罪したいと申し出たが、伊織は強引に美紅を会場から連れ出して車に乗せた。

(大変なことをしてしまった…)

本堂グループだけでなく、小笠原家にも迷惑をかけてしまっただろう。
パーティーの初めに、美紅は小笠原の人間だと紹介されていたのだから。

(本堂グループにも小笠原家にも、絶対に傷を付けるようなことはしないと誓ったのに)

バーでの紘の言葉も思い出す。
自分のしている事業を否定的に受け取る一族もいると。

(それなのに、あんな振る舞いを…)

気を許すと涙がこぼれそうになり、美紅はグッと唇を噛み締めていた。

そんな美紅の様子に、伊織はどうしたものかとため息をつく。

須賀もハンドルを握りながら、何度も心配そうにミラー越しに美紅の様子をうかがっていた。

沈黙を破って伊織は須賀に声をかける。

「俺のマンションに向かってくれ」
「かしこまりました」

須賀はすぐに頷いた。

「あの…、本堂様?」

ようやく美紅が伊織を振り返る。
伊織は真剣に美紅を見つめた。

「紘さんに、君を無事に送り届けると約束した。今のそんな状態の君をひとり暮らしの部屋に帰す訳にはいかない」

それだけ言うと、マンションに着くまで伊織は口を閉ざしたままだった。
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