紅色に染まる頃
第十七章 確かな歩み
「美紅ちゃん。この度は本当にありがとうございました」

改まって頭を下げたエレナが、照れたように笑う。

「どういたしまして」

美紅も微笑んで頭を下げた。

紘とエレナが再会した次の週末。
美紅はエレナとカフェでランチをすることになった。

紘の前から姿を消していた1ヶ月間の話を聞かせてもらう。

「フランスからは、あの日の前日に帰国したところだったの。ずっと無視していたけど、紘からの着信やメッセージがひっきりなしに入って。番号もアドレスもアプリのアカウントも、全部変えようと思って、帰国した次の日にショップに行ったの。手続きしていたら、うっかり美紅ちゃんから入ったばかりのメッセージを開いちゃって、思わず読んでしまったの。その途端、ショップを飛び出してた。私が守って欲しかった紘の環境を、紘が手放そうとしたことに驚いて。とにかく説得しようと思ったの。でも、駄目だった。顔を見たら、ただもう…」

エレナは涙で言葉を詰まらせた後、泣き笑いの表情で顔を上げる。

「嬉しくてたまらなかったの、また会えたことが。私、平気なフリをしていたけど、紘がいない人生なんて考えられない。彼と一緒にいられるのなら、誰に何を言われても構わない。そんなワガママな気持ちでいっぱいになったの」
「そんな、ワガママだなんて…」
「美紅ちゃん、本当にいいと思う?私が紘と結婚しても」

もちろん!と美紅は微笑む。

「私達家族はみんな大歓迎です!エレナさんの方こそ大丈夫ですか?エレナさんなら、素敵なフランス男性にだって言い寄られるでしょう?本当に兄でいいんですか?」
「当たり前よ!私は紘がいいの」
「それなら、何も問題なんてないです」

エレナは微笑んで頷く。

「ありがとう、美紅ちゃん。私、彼と一緒になるね」
「はい、よろしくお願い致します。お姉さん」

ふふっと、美紅はエレナと微笑み合った。
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