夢幻の溺愛
第一章 涙 side苑

* 4 years ago

は、と目が覚める。

昔の頃の夢を、見ていた。

そう、あれは確かお母さんがまだ生きていた頃__小六くらいのときの今と同じような暑さの頃の夏だっただろうか。

高一となった今となっては遠い昔のことのはずなのだけれど、まだまだ鮮明に思い出せる出来事。

雨の日にとぼとぼと一人ぼっちで歩いていた時に見つけた、段ボール箱に入れられていた二つの小さな命が、あった。



『もしかして、君たちも一人ぼっちなの?』



わたしのマンションはペット禁止だったけど、見捨てることなんて到底できなかった。

まだ幼い黒猫と白猫の入った段ボール箱を抱えて、近所を歩き回った。




近所中を回って、それでも段ボール箱はわたしの腕の中にあるままで。



(どうしよう…このままじゃ、家に帰れないよ…)



段ボール箱を持ちなおしたために傘を持つ手がずれて、ぽつっと雨が額に当たる。



(…あぁ、いや、家にわたしの帰りが遅くて心配してくれるような人なんて誰もいなかったな。)



わたしのお母さんは、いま重い病気で病院に入院している。

そしてそのお母さんのことが大好きだったお父さんはそんな現実を直視したくないらしく、最近はめっきり帰りが遅くなった。

水滴がすうっと頬を滑り落ちる。

あてもなくさまよい歩いているうちに、うちの周辺にある中では広い方の公園につく。

みゃーお、と白猫がなく。



『…、ああ、ごめんね、ちょっとぼうっとしちゃってたや…』



みんながよく遊んでいる巨大な銀杏(いちょう)の木の下に行くと、傘を閉じて座り込んでも葉が雨除けになってくれて、濡れずにいられた。



『…ねえ、君たちはどこから来たの?』



と返事が返ってくるはずのない問いかけをする。



『わたしね、いま学校でも家でも居場所ないんだよね…。だから、もしも君たちが帰る場所がなかったら、おそろいだね…。』



思い出して、少し泣けてきてしまうが、猫たちに心配をかけないよう頑張って笑顔を作る。

すると黒猫が、そんなことしないでいいよ、というふうに擦り寄ってきてくれる。

それが、すごく心地よくて。

空を見上げると、雨はもうやんで太陽が葉の隙間から覗いていた。

それが嬉しくて、猫たちの方を見る。



『え…っ!?どこ、行ったのっ!』



さっきまで絶対居たはずの猫たちが、わたしの前から入っていた段ボール箱とともに忽然(こつぜん)と消えていた。

そのあと、猫たちはいくら探しても見つからなかった。

それだけといえばそれだけの出来事だったのだけれど、わたしの記憶にはなぜか深く刻まれている。



「あっ、もう時間が間に合わない…!」



急いで体の上にかけてあった毛布を跳ね除けて、洗面所に向かう。
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