君に僕の好きな花を
「見苦しいもの見せてごめん。何だか急に寂しくなっちゃって……。ちょっと前まではこんな田舎、すごく嫌だったのにな」

「その気持ち、何となくわかるよ。僕は県外じゃなくて地元進学だけど何か寂しい」

男子は、目元が隠れてしまうのではないかと思うほどの自身の長い前髪に触れる。決してクラスで目立つタイプではない。でも、穏やかなその声が私の心を落ち着かせてくれた。

「どこに進学するんだっけ?」

「横浜」

「遠いね」

「うん。ここからだと、新幹線で二時間くらいだね」

同じ教室にいるのが当たり前だった頃、この男子と話すことはあまりなかった。でも何の気まずさもなく話すことができて、どこか不思議だ。

「あ、あのさ……」

少し話した後、男子はブラザーのポケットから何かを取り出す。それは本に挟む栞だった。クローバーが押し花にされている。

「よかったらこれ、もらってくれないかな?」

男子は耳まで真っ赤にしていた。声はどこか上擦っていて緊張していることが一目でわかる。
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