なぜか御曹司にロックオンされて、毎日ドキドキと幸せが止まりません!
「フォ、フォーリンラブ?」
「そうです。僕はすでに紅月さんへ恋に落ちているので、紅月さんが俺のことを好きになってほしいなあと思って」
 だから……と、神永さんはゆっくり前置きのように言葉を繋いだあとで、私の目を見てにっこり微笑んだ。

「まずは物理的に距離を近づけなくてはならないので、さっそく今から紅月さんの家へ行きましょう。迎えは呼んでいます」

『あと五分です』
 司会の人がタイミングよく、タイムリミットをアナウンスする。

「だそうなので、切り上げて出ましょう。僕はあなたと対面するまでは、と思って参加していたので、紅月さんにプロポーズできた以上、ここに留まる理由も義理もありませんので」
 そう言って神永さんは席を立ち、それから奥に座っていた私のほうへ回り込むと、所作美しく片手を胸の前あたりに差し出してきた。

 この手を掴んだら、私はこのあと一体どうなってしまうのだろうか。

 本当に神永さんの言う通り、実家は融資を受けることができて……それから、私は神永さんの妻……になってしまうのだろうか。

 本当に――?

 初対面のはずの、世界に名だたる御曹司の、私が妻に?

 ありえない。
 ありえなすぎる。
 これは夢なんじゃないか。

 そう思ったけれど、私の前には相変わらず大きな手が差し出されている。

 ふわりと神永さんから上質な香りが漂ってきた。

 夢じゃない。

 現実だ。

「どうぞ、僕の愛する人」
 何度目を瞬かせても、神永さんでなければ歯が浮きそうな言葉と仕草で、私はエスコートされかけていた。

 いや、もしかして今この瞬間も願望が夢として現れただけなんじゃないかと考える。

「もしこの申し出がお嫌であれば、ここで二度と僕が立ち直れないほどこっぴどくふってください。まあ、今日の参加者で僕以外に紅月さんのご実家の負債を失くすことができるほど、財力のある参加者はいないでしょうけれど」
 口の端をにやりと意地悪そうに持ち上げた神永さんは、私を断れないような状況へと追い込んでくる。

 それからあとのことはよく覚えていない。

 神永さんに導かれるように私も席を立ち、周囲の羨望と嫉妬の悲鳴を浴びながら、気づけば黒光したドイツ車のエンブレム付きの車で、下町にある紅月家へたどり着いていたのであった。











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