捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

昨夜、ソルシエールの試着室で何度も聞いた「可愛い」「似合うな」というセリフが、頭から離れない。

凛は早速約束を取り付け、今日も早く上がれるようにひたすら仕事に没頭したが、ふと自分の行動に疑問が湧いてくる。

(これって、なんだか副社長に「可愛い」って言ってほしくて必死になってるみたい)

湧き上がった疑念を咄嗟に否定する。

(違う違う。ただ化粧品会社の秘書として、もう少し身だしなみに気をつけなくちゃっていう話であって、そういう疚しい意図はないわ)

心の中で誰にともなく言い訳をしながら業務をこなし、あっという間に終業時刻となった。

亮介は製薬会社の社長との会食のため、父親である社長と秘書の林田とともに先程出ていった。

本来なら凛も同席するところだが、最近残業が続いていることや、相手方が秘書も含め皆男性でかなりの酒豪揃いだという理由から、今日の席は外れることとなった。申し訳ない気もするが、亮介からは『残業せずに帰るように』と念を押されている。せっかく空いた時間を有効に使いたい。

退勤してスマホを確認すると、すでに会社の近くまで弟の大志が迎えに来ているとメッセージが入っていた。

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