捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

なにを言うこともなく歩き出した亮介のその表情を見られただけで、凛は貰った服を着てきて正解だったと感じた。

その日は秘書課の人間だけでなく、新ブランド企画で関わる企画部や開発部のメンバーからもファッションを褒められ、いかに自分が今まで身だしなみに手を抜いていたかを実感する一日となった。

そうなると、ナチュラルすぎるメイクや、野暮ったい黒髪まで気になってくる。

(副社長のあの髪は地毛なのかな。たしか会長の奥様がフランスの方だったはず)

フランス人の妻が光り輝くようなコスメを作ろうと、フランス語で『光』という意味の『リュミエール』を立ち上げたのが亮介の祖父であり、現会長の海堂士郎だ。

亮介には四分の一だけフランスの血が通っている。彼のような美しいブラウンとまではいかなくても、少しだけ色を明るくしてみるのはどうだろう。

昼休みにオシャレ好きな弟に連絡して美容室を紹介してほしいと頼むと、友人の姉が美容師をしているらしく、予定が合うなら今日来てもらっても構わないと言ってもらえた。

この機会に、少しだけ自分を甘やかしてみてもいいかもしれない。亮介に自分を顧みていないと指摘されたばかりだ。

(もし私があの服に合わせてヘアメイクも変えたら、副社長はなんて仰るだろう……)

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