夢×恋グラフィティ

第6話❥合図



まるで、ピタリと地面に縫い付けられたように動かない私の足。

そのため、母が目尻を釣り上げて、近づいてくるのをただただ見つめることしかできなかった。

「悠花!あんたって子は…塾の先生から電話があったのよ。塾の自習室を見回りした時に何時間も荷物だけ置いて姿が見えないって…!」

怒りからかフルフルと手が震えている母に私はヒュッと息を呑む。

こんなに怒っている母親を見るのは、初めてだ。

大きな声で怒鳴る母に周りを行き交う人々も何事かと、視線を向けている。

「それにその格好は何!?チャラチャラして…。塾に行くフリして遊んでたのね?」

「お母さん、黙っててごめんなさい。でも…」

「言い訳なんか聞きたくないわ!お母さん、いつも話してるでしょ?しっかり勉強しないと良い大学にも医者にもなれないの!!お父さんみたいな立派なお医者さんになるんでしょう?それなのに…お母さんに嘘ついて…!」

説明しようと口を開けば、途中で私の言葉を感情的に自分の主張を言い張る母親。

私はそんな姿を見て、だんだんと自分の心が冷えていくのを感じていた。

そっか…。
お母さんは私の話を聞いてくれないんだね…。

そう思うと胸がチクンと痛む。

「悠花さんのお母様…!まぁまぁ。そんなに興奮なさらないでちょっと落ち着いてください」

騒ぎを聞きつけたのか、塾で数学を教えている田中先生が慌てて私達の方に駆け寄ってきた。

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