絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 先にメッセージを入れて相手の予定を確認すべきだろう。そう考えてコートのポケットからスマートフォンを取り出したまさにそのとき、ふと画面に電話アプリが立ち上がった。

 マナーモードに設定中のため着信音はならないが、ブブブと振動する画面には相手の名前が表示されている。その名前を確認した瞬間、絢子は驚きの声をあげそうになった。

 驚くに決まっている。なぜなら電話をかけてきた人物は、絢子が今まさに連絡をしようと思っていた相手――婚約者である獅子堂 玲良(ししどう あきら)だったのだから。

(うそ……どうして?)

 ほんの数秒だけ、電話に出ることをためらった。というより、想定より早く玲良と話す機会がやってきてしまったので、感謝と謝罪と別れの言葉をまだ準備できていなかった。だが忙しい彼をあまり待たせるわけにもいかないので、とりあえず出ようと『応答』をタップしてスマートフォンを耳に押し当てる。

「はい……」
『絢子!』

 絢子の最初の一言と玲良の少し焦ったような声がぴたりと重なる。

 彼の声を聞いたのは実に三か月ぶり。夏に父の仕事関係のパーティーに出席したとき、同じく出席していた玲良とも挨拶をして少しだけ近況も報告し合った。公的な場だったのであまり深い話はしなかったが、あのときも……否、常に冷静で紳士的な玲良が、今日は珍しく慌てたように絢子の言葉を遮ってくる。

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