絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
だが出ない訳にもいかない。もしかしたらこのスマートフォンを解約する、という内容かもしれないし、あるいはもっと別の用件かもしれない。いずれにせよ、匠一との会話からずっと逃げ続けているわけにもいかない。
応答ボタンをタップしてスマートフォンを耳に押し当てる。しかし絢子が一言目を発する前に、スピーカーの向こうから二週間前と同じ匠一の怒声が飛んできた。
『絢子! お前、今どこにいるんだ……!』
「あの……えっと……」
『いや、どこでもいい! なんでもいいから、さっさと家に戻ってこい!』
「え? ……えっ?」
匠一への返答に迷い、反応が遅れてしまった。その合間に彼が重ねてきた言葉を、最初は聞き間違いかと思った。
だが間違いでも空耳でもない。匠一の要望は、絢子の期待や願望や想像を超越していた。
『獅子堂玲良が燈子では駄目だと……お前以外とは結婚しないと言ってる!』
「!?」
『本当は俺の娘じゃない女を桜城の名で嫁がせるのは不本意だがな! 背に腹は代えられない!』
匠一の口振りから彼が急に連絡してきた理由をようやく察する。
おそらく匠一は、絢子が桜城家から出たことを伏せた上で、玲良の婚約者を絢子から燈子に変えられないか打診したのだろう。あるいは燈子が得意の『おねだり』をしたのかもしれない。